大阪地方裁判所 昭和49年(ミ)5号 決定 1974年11月12日
申立人
日本熱学工業株式会社
右代表者
牛田正郎
右代理人
大原篤
同右
大原健司
主文
本件申立を棄却する。
理由
第一申立の要旨
一、申立会社は昭和三二年二月一一日設立され、その目的は、主として暖冷房工事、空調設備工事および子会社であるエアロマスター株式会社の製造するクーラー等を販売するものであり、現在の資本金は一〇億一八〇〇万円、発行済株式総数は二、〇三六万株である。
二、申立会社は設立以来順調に発展し、最近ではいわゆるコイン・クーラーの販売にも世上相当の人気を得て成長し、昭和四七年八月一日大阪証券取引所第二部に上場され、昭和四九年五月一日東京、大阪両証券取引所第一部上場となつた。
三、しかし、申立会社は設備投資、流通在庫が過剰となり、在庫品もシーズン前のため換価できず、受取手形は支払期日が長期に過ぎその現金化が直ぐには困難であるところ、昭和四九年五月一七日支払期日の手形金八億五、一九三万一、八〇六円の支払いができずに不渡りとなり、更に今後引続いて支払期日の到来する手形を決済する資金はない。
四、もし、これらの資金を調達しようとすれば、土地、建物、機械、設備等申立会社の運営に必要な資産の処分や在庫品の廉価販売をする他はなく、かかることをすれば、申立会社の事業の継続に著しい支障をきたすことは明らかである。
五、申立会社は空調設備工事部門で松下電器産業株式会社、鹿島建設株式会社、大成建設株式会社などと、また、機器販売部門で株式会社山善、湯浅金物株式会社などの大手会社とも取引があり、それぞれ充分な収益性をもつており、その機器販売部門においては特殊な特許権を有し、同業者間で有利な立場にある。
申立会社の資金難の原因は過剰な流通在庫と過剰な設備投資にあり、これを除けば本来健全な会社であるから、人材と資金を得て、出来るだけ在庫品の換価をはかれば再建は可能である。また、今後はその有する特許権を生かし、子会社のエアロマスター株式会社の工場を活用し、シーズンの到来と共に再び在庫品を販売して収益をあげることができる。更に、申立会社は第一部上場会社としての社会的責任から、また、債権者、従業員、株主の保護の点からも、更生する強い必要があるので、申立会社に対し更生手続を開始する旨の決定を求める。
第二当裁判所の判断
一<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。
1 申立会社は昭和三二年二月一日資本金二〇〇万円、発行済株式総数四〇〇〇株で設立されたが、株式の額面を五〇〇円から五〇円に変更することを目的として昭和四五年四月一日、休眠会社であつた日本熱学工業株式会社(昭和二四年一〇月一七日設立、同四四年一二月一一日商号を株式会社日本電業社より日本熱学工業株式会社に変更)に吸収合併される形式をとり、その後増資の結果現在の資本の額は金一〇億一、八〇〇万円、発行済株式総数は二〇三六万株であり、その主な株主は、昭和四八年一二月三一日現在で、別紙第一のとおりである。そして、東京外一〇ケ所に支店を有する。
2 申立会社の目的は(一)建造物その他に対する暖冷房・空気調和、環境衛生および電気設備配線工事の設計施行(二)土木および建築工事の設計施行(三)前二項の補修改造、(四)環境調和、公害防止、防災および医療その他に要する機械器具の製造および販売(五)前四項の事業に要する機械器具および諸材料の製作・輸出入・売買および仲介ならびに工業所有権・ノウハウの売買および仲介(六)前各号に附帯する一切の事業である。
3 申立会社の現実の営業内容は、空調設備工事の設計施行部門、コインクーラーを初めとする家庭用クーラーの販売取付工事部門および機器販売部門に大別されるが、その中心は空調設備工事部門である。
申立会社の空調設備工事は、子会社であるエアロマスター株式会社の製造する水冷式エアロマスター(実際の製造は、同会社により松下精工株式会社および東洋空調株式会社に発注して行われた。)なる冷暖房機器を使用して施行するものがその中心であつたが、施行技術もよく、また水冷式エアロマスターが従来の集中的な空調方式と異り各室における個別的制禦を可能にしたこと、運転経費が少く、設置スペースが小さく、工事および保守管理が容易で運転騒音が低くかつ、耐久性が優れていることなどの特色と優良な性能を有し、建築物の空調方式に新しいシステムを導入するものであつた。そのため、申立会社は空調工事業者として急速に成長し、業界においても上位にランクされ、同社の株式は昭和四七年八月一日大阪証券取引所市場第二部に、昭和四八年六月一日東京証券取引所市場第二部にそれぞれ上場され、昭和四九年五月一日には両市場の第一部に指定替えされた。
発行年月日
昭和
四七年八月一日
同年
一二月三一日
昭和
四八年六月一日
同年
一二月三一日
計
株数
二〇〇万株
七五万株
一六〇万株
二〇〇万株
六三五万株
一株の
発行価額
三四〇円
六五〇円
八五〇円
七二〇円
調達金額
六億
八、〇〇〇万円
四億
八、七五〇万円
一三億
六、〇〇〇万円
一四億
四、〇〇〇万円
三九億
六、七五〇万円
そして、申立会社は右上場後一年半足らずの間に次の如く四回にわたり株式の時価発行を行い、合計三九億六、七五〇万円の資金を証券市場から調達し、株価も昭和四九年三月には高値一、五〇〇円をつけた。
4 申立会社は前記証券取引所市場一部指定替の直後である昭和四九年五月一七日に同日を支払日とする手形金八億五、一九三万一、八〇六円を支払うことができず第一回目の不渡りを出し、続いて同月一八日にも支払期日の手形金九九、四〇万六、七三九円の支払いができず第二回目の不渡りを出し、同日銀行取引停止処分を受けるに至つた。
5 このように申立会社が倒産するに至つた主な原因は次のとおりである。
(一) 収益面における原因
(1) 空調設備工事部門
申立会社の営業の中心であるこの部門において、近年収益は次の如く低下する一方で、損失さえ生じていた。
事業年度
完成工事高単位
(千円)
売上総利益単位
(千円)
売上総利益率(%)
一六期
五、七一五、一五四
五四六、六六九
9.6
一七期
一一、〇五九、五四六
四八七、二三九
4.4
一八期
一三、五〇七、〇一三
△一四、四五〇
△0.1
なお右事業年度の一六期は昭和四六年七月一日より同年末日まで、一七期は昭和四七年一月一日より同年末日まで、一八期は昭和四八年一月一日より同年末日までであり、右数値は粉飾額修正後の数値によるものである。
このように一六期から一八期にかけ完成工事高は増加しているにもかかわらず売上総利益は減少し、一八期に至つて損失さえ生じていることは、金融引締政策による空調設備工事の減少と過当競争により申立会社が採算のとれない受注を余儀なくされたためである。そして、申立会社の営業の中心である空調設備工事部門での採算がこれ程までに悪化していたことが、その倒産の主要な原因であることは明らである。
(2) 家庭用クーラーの販売取付工事部門
申立会社は、昭和四七年度から一〇〇円硬貨を投入すると一時間運転する方式のコイン・クーラーをいわゆるエアロ・セル・システムにより販売することを開始した。
このエアロ・セル・システムは、既に大手家電メーカーによつて確立された家庭用クーラーの販売網に対抗するべく、申立会社が開発したアイデア商法ともいうべきものであり、この構造は次のとおりである。
エアロマスター株式会社で製造されたコイン・クーラーは同会社から申立会社へ、次いで申立会社からリース会社に売却される。リース会社はこれを全国の都道府県ごとに設立されたフランチヤイジーであるエアロセル会社(全国四五社)にリースし、各エアロセル会社はこれを最終の需要家にリースし取付工事やアフターサービスを行う。各エアロセル会社は需要家からリース料をコインにより回収するが、リース会社に対するリース料は六年年賦の手形で支払い、リース会社から申立会社に対する売買代金は平均一八〇日の手形で、申立会社からエアロマスター株式会社に対する代金は平均一五〇日の手形でそれぞれ支払われる。そして、各エアロセル会社の注文の取りまとめ、広告、市場開拓その他販売促進業務は、別に設立された日本空気販売株式会社が行い、各エアロセル会社は売上の五ないし六パーセントを右会社に支払う。また、申立会社は各エアロセル会社に対し、アフターサービス、取付工事費等を支払い、また日本空気販売株式会社に対してもシステム使用料を平均一二〇日の手形で支払う。なお、コインクーラーの大規模な修理は、エアロマスター株式会社が直接需要家に対して行うというものである。
以上がリース会社が申立会社と各エアロセル会社との間に介在した場合のいわゆるリース方式によるエアロ・セル・システムであるが、昭和四八年には金融引締め、エアロセル各社の販売力の限界等の理由によりリース会社が取引を拒絶した結果、前記のエアロ・セル・システムのうちリース会社は無くなり、申立会社が各エアロセル会社にコイン・クーラーを直接売却するいわゆる直販方式によるエアロ・セル・システムとなり、この場合売却代金は六年年賦の手形で支払われた。
さて、家庭用クーラーという既に競争の激しい市場においてコイン・クーラーという新製品を新しい販売組織を作つて販売するにあたつては、販売開始前に商品の厳密なテストをくりかえし、その品質が優秀で故障が少いものにすること、現実に取付工事を行う技術者に対し充分な製品知識と工事技術に関する指導を行い、取付工事の誤りによる故障が生じないようにすること、一旦故障が生じた場合迅速に修理ができる態勢を整えること、事前に充分な市場調査を行い需要の実態を確かめること、また、エアロ・セル・システムを円滑に運営するため中心となる申立会社のスタッフを充実し、各エアロセルを継続的に指導し、経理の処理の統一等経営ノウハウを確立すること、このシステムによる販売の資金計画を厳密にたてること等が必要である。
しかし、これらの点に関して申立会社の行つたことは極めて不充分であり、そのため発売頭初にコイン・クーラーのコインタイマー部分に故障が続出してこの商品に対する信用を失墜させ、更にその売上高も申立会社の予想を遙かに下まわるものとなつた。そのうえ、申立会社は、リース会社より値引を要求され、総売上台数八万二、五〇〇台に対し七億七、二八〇万円の値引を行い、この結果原価が一台につき一〇万一、六五〇円であるのに対し、一台当りの価格は一〇万三、五〇〇円となつた。更に、右原価にはすでに各エアロセル会社に対する拡販援助費六、〇〇〇円が含まれているにもかかわらず、そのうえに販売促進のため、申立会社は、各エアロセル会社に対し運営援助費として、需要家に据付分について一台当り六、〇〇〇円、未据付分に対し一台当り一、〇〇〇円合計二億七、九一六万七、〇〇〇円を支払うこととした。これらが、後述のように、一八期において、多額の欠損を生じた原因となつたのである。そして、昭和四八年にリース会社が取引を拒絶するに及び、申立会社は実際は支払能力のないエアロセル各社振出しの六年年賦の手形により巨額の代金を回収することになつた。エアロ・セル・システムは本来投下資金の回収に長期間を要するシステムであるが、このようにリース会社が介在しなくなつたため申立会社の運転資金の必要量は一層増大し、その資金繰りを著しく圧迫する結果となつた。
コイン・クーラーの販売実績は、一七期において、リース方式による売上台数二万四、九三四台、売上総利益三億三九〇万二、〇〇〇円、直販方式による売上台数一、八五七台、売上総利益二、四二四万八、〇〇〇円、一八期においてリース方式による売上台数五万七、五五八台、売上総利益△三億二、七四七万九、〇〇〇円、直販方式による売上台数○となつた。
かくして、コイン・クーラーの販売取付工事部門は売上の損失を生じたばかりか同部門の販売費を加えて多額の欠損を生じ、空調設備工事部門の業績悪化に苦しむ申立会社を倒産に至らしめる要素となつたのである。
(3) 機器販売部門
申立会社の機器販売は一六期、一七期にも計上されているが、これは主として子会社であるエアロマスター株式会社に対する空調機器、原材料の売上高であり、実質的な外部売上は一八期後半に行われている。販売された商品は、主として外部から購入する冷暖房機器、焼却炉、ロードマーカーおよび輸入の暖房器具、クーラー等であつたが、充分な市場調査、商品の品質調査、販売ルートの開拓のないままに行われたので一八期においては二億一、九一一万二、〇〇〇円の利益(但し、この中にはエアロマスター株式会社に販売した機器による利益も含まれている)を得たが、一九期に至つては原価以下で販売し、昭和四九年五月までで一億三、五六六万六、〇〇〇円の損失を生じている。そして、この機器販売部門における失敗も申立会社の倒産の原因のひとつになつていることは明らかである。
(二) 資金面における原因
(1) 申立会社の昭和四七年以後の資金運用の型は、経常支出を経常収入でまかなえず、その不足を増資や借入れによつて補うという不健全なものである。その増資も、既述のように、証券取引所市場上場後一年半足らずで四回の時価発行を行い、合計三九億六、七五〇万円の資金を証券市場から得ていた。このように、資金調達を証券市場に頼つた反面主力銀行をもたなかつたこと、そして、いざという時に多額の借入金の担保となるべき固定資産をもたなかつたことが、倒産直前の資金逼迫の危急時に銀行の融資を得られない結果となつてあらわれたのである。
(2) 申立会社の資金計画は極めてずさんであり、全社的に統合された計画も責任者もなく、本社、大阪事業本部、東京事業本部は別々に資金対策を講じ、その相互の資金融通は全く場当り的に行われていた。
(三) 経営管理組織面における原因
申立会社の組織のうち経理部門の管理機能の不備が大きな欠陥である。そのため、各事業部、営業部門において適宜に利益操作を行うことができ、本社においてこれを管理し統制する体制になつておらず、経営首脳者といえども各事業部の経営実態を適確に把握することが困難な組織となつている。前記の如く、申立会社の資金計画が全社的に統一されたものでなかつたことの大きな原因はここにあると考えられる。
また、前述のコイン・クーラーの販売、エアロ・セル・システムの構想および機器販売などを通して典型的に見られるように、申立会社の経営は社長をはじめ二、三の経営者の着想によつて推進され、これに対する生産、販売、資金等の計画管理体制が整備されておらず、管理職を含め従業員は批判や不満を押さえて、これら経営者の無謀な計画に盲従する他はなかつた。
また、組織の運用においても、取引に関する命令が社長等の首脳陣から中間の部、課長を経ないで直接下部伝達されることがしばしばあり、その意味で、申立会社の経営管理組織はその実態において権限と命令系統が不明瞭なものであつたといえる。
6 申立会社の昭和四九年五月三一日現在の財政状態は別紙第二のとおりであるが、その債務額は多額で、かつ、著しい債務超過である。
なお、申立会社の一六期ないし一八期の財政状態および経営成績は別紙第三のとおりであるが、このように申立会社が多額の粉飾決算を行つたのは、前記のように、証券取引市場における株式の時価発行に主たる資金調達源を求めていたため、株価の維持が同社の死命を制することになつていたからである。
二以上の事実によれば、申立会社について会社更生法三〇条一項に定められた更生原因のあることは明らかである。そこで、申立会社の更生の見込について前掲資料により検討する。
1 空調設備工事部門
申立会社が昭和四九年六月二六日当裁判所に提出した同社再建のための事業計画書によれば、空調設備工事が事業内容のひとつとなつているが、現在の金融引締めの経済情勢下において、建築物の工事量自体が減少し、また建設資金の不足は空調設備工事部門の工事代金額を著しく圧迫している。そして、申立会社と競争関係にある空調設備工事会社は約二〇社あり、その間で過当競争が行われているためこの種の工事による利益は一般に少く、この状態が近い将来において著しく改善されることは予想できない。
また、空調設備は、建築物と共に永く使用するものであるから、長期間にわたりアフターサービスの保障のあることが必要となる。そして、空調設備工事は、欠陥があつた場合補修に莫大な費用を要するばかりか、その空調設備工事業者を選択した建設業者の信用を失墜せしめる結果となる。しかも、空調設備工事業者は技術者の集団であつて、多額の損害賠償債務が発生した場合、それを支払う資力や担保となるべき充分な資産を有しないのが通常である。
従つて、空調設備業者の場合は、他の業種の企業にも増して信用が大切である。ところが申立会社は倒産により多くの継続中の工事を中断して多くの取引先に損害を与えたばかりでなく、多額の粉飾決算を行い、東京、大阪両証券取引所市場第一部指定替のなされた直後に倒産して多数の債権者および一般株主に著しい損害を与え、更に役員の一部に犯罪の容疑のあることが広く報道された結果、その信用は、過去の多くのすぐれた工事にもかかわらず、回復が著しく困難なまでに失墜している。
このような条件の下では、申立会社が相当な利益の上る空調設備工事を多量に受注することは不可能に近い。また、仮りに得られたとしても、現在申立会社にいる約一三〇名の従業員では多量の工事を行うことはできない。その上、空調設備工事においては下請工事業者を必要とするが、信用の失墜した申立会社の下請を行う業者も極めて少い。
結局、申立会社が空調設備工事によつて利益をあげ、その債務の一部であれ弁済する相当量の資金を得る可能性はないと認めることができる。
2 家庭用クーラーの販売取付部門および機器販売部門
コイン・クーラーは問題外として、その他の家庭用クーラーの販売取付工事については、その製造会社であるエアロマスター株式会社が申立会社と共に当裁判所に会社更生手続の申立をなし現在審理中であり、家庭用クーラーの生産は中断されている。仮りに生産が再開され同会社からその供給を受けることができたとしても、申立会社は販売ルートをもたないから、それを売ることができない。また、機器販売も前述の実績からみて、やはり申立会社再建のための営業内容とすることはできない。ちなみにこの両部門は申立会社の前記事業計画書にも含まれていない。
3 公害防止システムの設計施行および太陽熱利用空調給湯システムの設計施行
申立会社の前記事業計画書による事業内容において空調設備工事以外のものとして生産工場その他を対象とする公害防止システム(廃液処理、脱臭、大気汚染防止)の設計施行および太陽熱利用の空調給湯システムの実用化と設計施行があげられている。そして公害防止システム関連機器の製造は外注とし、申立会社はシステムの設計、施行、測定を受注し、アフター・サービスに備えること、また、太陽熱利用の空調給湯システムは申立会社が現在申請中の一〇件の特許および実用新案を利用したもので、その構成ユニットはすべて外注として、申立会社はそれをシステム化し、施行販売する計画となつている。
公害防止およびエネルギー問題は、我国にとつて目下緊急の課題であり、前記二つの事業は、一般的には充分将来性のあるものである。しかしながら、申立会社の公害防止システムの設計施行の実績は少く、太陽熱利用の空調給湯システムも未だ完全な実用化の段階に至つていない。従つて、いかに一般的に将来性があるとしても、申立会社が近い将来にどれだけの注文を得ることができ、どれだけの利益を得られるか予測は極めて困難である。一般に新しい内容の事業を始めることは健全な企業にとつても予期せぬ危険を生じるものであり、特に太陽熱利用の空調給湯システムは全くの新製品であるから一層危険が大きく、倒産という不利な条件を負つた申立会社がこの新しい事業により、近い将来に債務の弁済資金に寄与するだけの相当量の利益を得られると予測することは困難である。しかも、この事業を行うについての資金の提供者は現段階では存在しない。
結局、この二つの事業内容を前記の空調設備工事とあわせても申立会社には更生の見込みはないと認めざるを得ない。
4 申立会社を特許管理会社とする構想について
申立会社代表者大熊芳郎が昭和四九年一一月五日に当裁判所に提出した「サンエンジニアリング株式会社(仮称)設立起案書」と題する書面(同人が同年九月三〇日に提出した「サンエンジニアリング株式会社(仮称)設立起案」を修正したもの)および同人の供述によれば、右会社を設立し、申立会社の技術者約五〇ないし八〇名を雇用して、申立会社の既に有するまたは申請中の特許権や実用新案権を利用して、主として、前記1および3の事業を行い、空調設備工事については将来精密工場、病院の手術室等の精密空調設備にも進出し、特許権等の実施料を申立会社に支払つて申立会社の債務弁済の資金とするとの構想がある。そして、右実施料の額は〇年度から一五年間で約四六億七、八〇〇万と算定されている。この構想は、申立会社の資産をこれ以上減少させない点で申立会社自体が前記事業を行う場合より安全とはいえるが、現段階において、この会社は未設立で資本金や運転資金の出所も未定であり、またその事業についても前記1および3で述べたことが殆んどそのまま該当するので、この方法によつても申立会社の更生の見込はないと認めざるを得ない。
また、申立会社代表者の牛田正郎が昭和四九年一〇月二二日当裁判所に提出した「日本熱学再建協力計画」と題する書面によれば、申立会社が特許申請中の自動冷却枕および前記の太陽熱利用空調給湯機器を別に設立する波羅密興産株式会社で製造販売し、申立会社に特許権の実施料を支払う形で申立会社を更生させるとの構想が述べられている。そして、右別会社は申立会社について更生手続開始後二ケ月以内に設立し、自動冷却枕や太陽熱利用空調給湯機器の製造はすべて外注とし、昭和五〇年度から一二年間で少くとも七二億円の実施料を支払うことが可能というものである。
この自動冷却枕は病院等で使用する氷枕に代るものとしてその着想は良いが、現段階では、試作品が一応できたのみであり、販売ルートとなるべき有力商社も定まつていない。そして、このような新製品の販売をするためには、コイン・クーラーの轍を踏まないよう、商品の品質性能について厳密なテストをくりかえし、事前に充分な市場調査を行つて需要の見込みを確かめ、厳格な資金計画をたて、かつ、販売ルートが確立される見込みがなければ失敗の可能性が大きい。ところがこれらの条件はすべて現在満たされておらず将来にかかつているのであつて、多数の債権者の犠牲において行う更生会社の事業内容としては危険が大き過ぎる。太陽熱利用空調給湯機器については前述のとおりである。
従つて、この構想によつても申立会社には更生の見込みがないと認めざるを得ない。
5 債権者の意向について
債権者の大多数は申立会社の会社更生法による再建に消極的であり、かつ、速やかな決定を求めている。申立会社の再建を積極的に援助する意思を表明する債権者は極く少ないし、その援助のみによつて申立会社を更生させる可能性は全くない。
三よつて、申立会社は更生の見込みがないと認め、会社更生法三八条により本件申立を棄却することとして、主文のとおり決定する。
(首藤武兵 菅野孝久 岩谷憲一)
別紙第一
氏名又は名称
住所
所有株式数
発行済株式総数に対する
所有株式数の割合
牛田正郎
東京都目黒区東が丘1丁目4-9
4,706千株
23.11%
松下電気産業株式会社
大阪府門真市大字門真1006
1,280
6.29
牛田次郎
兵庫県尼崎市東園田町4丁目154-6
764
3.75
平野三代子
東京都太田区池上6丁目41-10
433
2.13
エアロマスター株式会社
大阪市東区瓦町5丁目37番地1
345
1.70
大熊芳郎
大阪府豊中市上野坂1丁目13番地19号
295
1.45
平野章
東京都太田区大森北3丁目29-7
271
1.33
住友金属工業株式会社
大阪市東区北浜5丁目15番地
242
1.19
平清
大阪府守口市来迎町42
233
1.14
日本生命保険相互会社
大阪市東区今橋4丁目7番地
192
0.94
計
8,760
43.03
別紙第二
貸借対照表
昭和49年5月31日 (単位千円)
資産
負債及び資本
科目
金額
科目
金額
流動資産
負債
現金及び預金
919,448
支払手形
17,044,377
受取手形
7,762,434
工事未払金
2,196,682
完成工事未収入金,売掛金
5,062,511
買掛金
1,911,663
有価証券
195,819
借入金
4,838,176
棚卸資産
3,815,644
前受金
4,627,655
短期貸付金,立替金
4,325,162
預り金
412,639
前渡金
2,142,702
未払税金
434,778
自己株式
4,500
その他流動負債
779,046
その他流動資産
856,550
退職給与引当金
389,423
流動資産合計
25,084,770
借入有価証券
811,047
固定資産
負債合計
33,445,486
建物
1,186,528
資本
車輛運搬具
27,511
資本金
1,018,000
工具器具備品
90,629
資本準備金
3,367,420
土地
620,790
利益準備金
75,000
建設仮勘定
302,187
配当平均積立金
175,000
電話加入権
12,454
別途積立金
997,000
固定資産合計
2,240,099
当期未処理欠損金
△21,163,162
投資
資本合計
△15,530,742
投資有価証券
79,110
子会社株式
410
出資金
124,997
長期貸付金
60,844
長期差入保証金
425,499
その他投資
27,065
貸付有価証券
589,458
投資合計
1,307,983
取立不能見込額
△10,718,108
合計
17,914,744
合計
17,914,744
別紙第三
(単位千円)
期別
純財産
当期損益
会社計算
修正額
修正後金額
会社計算
修正額
修正後金額
第16期(46.7.1~46.12.31)
810,098
△181,898
628,205
95,793
△104,632
△8,839
第17期(47.1.1~47.12.31)
2,408,427
△547,969
1,860,458
414,002
△366,076
47,926
第18期(48.1.1~48.12.31)
6,002,798
△4,243,808
1,758,990
931,973
△3,695,838
△2,763,866